医療?健康

TSUKUBA FRONTIER #048:データ分析で健康サービスの質を探る

田宮 菜奈子 教授の写真

医学医療系 教授/ヘルスサービス開発研究センター長
田宮 菜奈子(たみや ななこ)教授

PROFILE

365体育投注医学医療系教授。
1986年365体育投注医学専門学群卒業、1990年東京大学大学院医学研究科博士課程(医学博士)、1994年米国ハーバード大学公衆衛生学部修士課程修了。
1999年南大和老人保健施設 施設長、2000年帝京大学医学部衛生学公衆衛生学教室講師などを経て、2003年365体育投注ヘルスサービスリサーチ分野教授、2017年365体育投注ヘルスサービス開発研究センター長兼任、日本公衆衛生学会理事(2017年~現在)、2023年第82回日本公衆衛生学会総会学会長。

医療と生活をつなぐヘルスサービスリサーチ

医療というと病院で受ける診療のみを想像しがちですが、健康に関するサービスには、病気の予防や治療後のサポート、介護など幅広い領域を含みます。日常生活において、それらは一連の流れの中にありますが、社会的な仕組みとしては縦割りになっていて、連続したケアが受けられないことも少なくありません。さまざまなデータ分析に基づいて現状の医療を含めた関連サービスの課題を可視化し、その質の向上を目指すのが、ヘルスサービスリサーチという研究分野です。

医療を生活に「つなげる」ために

 病院での治療が終わって自宅に戻った後、適切なケアが受けられているか、検診で異常が見つかった人が、きちんと治療を受けているか、治療や検診を行った医師にはなかなか知る術がありません。検診、治療、リハビリ、介護などを行う施設や担当医は異なっており、それぞれの間の十分な情報共有も行われていないのが現状です。せっかく高度な治療や検診を受けても、それらが適切なコストで提供され、その後の継続的な支援、そして健康につながらなければ、良い医療サービスだとは言えないのです。
 医療関連サービス間の連携が重要であることは、概念としてはよく理解できます。しかし、実際にどんな課題があるのか、客観的、定量的に示されなければ、具体的な解決には結びつきません。さまざまな医療関連データを分析し、その結果に基づいて医療サービスの質的向上を図るのが、ヘルスサービスリサーチの目的です。

データ分析から制度の改善点を見つける

データ分析から制度の改善点を見つける

 データサイエンスが注目される中、医療分野においても、治療成績や感染症の拡大傾向などを把握する上で、統計やデータ分析の知識は必須です。個々の患者の状態から、集団としての疫学的な調査まで、幅広いデータ分析に対応できるよう、一定規模の病院や大学の医学部に、その専門家がいることの重要さは増しています。
 医療サービスに関するデータはいろいろありますが、特に有用なものとしては、誰がどこでどのような診療を受けたかが記載されたレセプト(診療報酬明細書)や、国民生活基礎調査などの国の統計があります。こういったデータの中から必要な情報を分析用に加工する作業は大変ですが、データへのアクセスは、かつてに比べると随分良くなっています。
 分析結果は、論文として発表するだけでなく、国の医療サービスの改善に向けた提案などにもつなげており、実際に診療報酬が加算されるなどの変化も現れています。また、自治体からの委託を受け、地域ごとの医療計画に関するデータ分析にも携わっています。

ヘルスサービスリサーチ研究を日本へ

 ヘルスサービスリサーチと出会ったのは、アメリカのハーバード大学公衆衛生大学院でした。臨床医として、自分が担当した患者のその後が把握できないことに疑問を感じて研究を始めたものの、日本では研究分野として確立されておらず、アメリカに渡りました。そこには、医療の質を測る学問であるヘルスサービスリサーチが講義として存在し、統計やデータ分析が大学院の必修科目になっていました。データ分析の結果が実際の政策にも生かされており、この分野の研究の重要性を実感しました。
 帰国後しばらくは、思うように研究を進めることが難しい時期もありましたが、最近は、公的データの利活用が推進され、ビッグデータを扱ったり、複雑な解析を行うこともできるようになってきました。そういった時代の流れも研究の追い風になっています。

より良い医療サービスのために

より良い医療サービスのために
(Make difference through high quality HSR
をモットーとした研究成果の数々)

 そんな中、日本でもヘルスサービスリサーチに興味を持つ人たちが増えてきました。研究室には、医師、看護師、理学療法士など、学生だけでなく現役のさまざまな医療従事者が集まり、それぞれの課題意識に基づいた研究に取り組んでいます。特定の手術を受けた人の術後の経過、高齢者に処方する薬の種類や量、救急車で搬送された人が受ける医療の内容、大学病院と地域医療の連携、在宅医療のニーズ、などなど、研究テーマは多種多様です。ここから巣立った人材が各地の病院や大学などで活躍しており、人材育成の面でも少しずつ手応えを感じています。
 また、筑波大では2017年にヘルスサービス開発研究センターを設立し、地域医療や介護サービス事業への展開などを視野に入れた、自治体や企業との連携による研究が進められています。さらに、公的統計のミクロデータ(調査票情報)を、許可を受けた研究者に提供するオンサイト施設が学内に設置されました。ヘルスサービスリサーチの先駆者として、より良い医療サービスの実現を牽引していきます。

365体育投注医学医療系 ヘルスサービスリサーチ分野

365体育投注医学医療系 ヘルスサービスリサーチ分野

日本で初めて大学に設置されたヘルスサービスリサーチ分野の研究室。医療における各種サービス(看護?保健?福祉を含む)の質を包括的?科学的に評価?分析し、実証データに基づく学際的研究成果を通じて、サービスの質向上を図り、生活と調和した医療実現の一助となることを目指す。全国規模のビッグデータを扱う研究も実施しており、さまざまなデータを利用した研究を支援するとともに、ヘルスサービスリサーチの普及にも注力する。

365体育投注医学医療系 ヘルスサービスリサーチ分野


(文責:広報局 サイエンスコミュニケーター)

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