ミャンマー大地震はブーメランのような逆破壊伝播や超せん断破壊を含む複数のサブイベントで構成される特異な地震だった

2025年3月にミャンマーで発生した大地震の震源過程を、破壊の進行方向や断層形状を仮定せず柔軟に解析する新手法(ポテンシー密度テンソルインバージョン法)で解析し、断層に沿って南北の2方向へ行ったり来たりする非対称で高速な破壊成長様式を有する極めて複雑な震源過程を明らかにしました。
2025年3月28日、ミャンマー中部マンダレーにおいてモーメントマグニチュード(Mw)7.7の大地震(2025年ミャンマー地震、以下ミャンマー大地震)が発生し、地震による強い揺れによりミャンマーおよび周辺国に多くの被害をもたらしました。余震分布は震源から南側に広がっており、ミャンマー大地震は震源から南方向に破壊が伝播したと考えられます。このような場合、ドップラー効果と類似したディレクティビティ効果により、破壊が進行する方向(今回の地震なら震源の南側の観測点)では振幅が大きく鋭いパルス状の波形が観測されることが一般的です。しかし、観測された地震波形は震源より北側の観測点で振幅が大きく鋭いパルス状の波形となる一方で、震源より南側の観測点では振幅が相対的に小さく、複数のピークを持つ波形が長時間続くという特徴がありました。これは、ミャンマー大地震が、通常とは異なる地震であったことを示唆します。
本研究は、このような特異な特徴を持つミャンマー大地震の地震波形データを、破壊の進行方向や断層形状を仮定せず柔軟に解析する新手法(ポテンシー密度テンソルインバージョン法)に適用し、震源過程を推定しました。その結果、ミャンマー大地震の震源過程は複数のセグメントに分かれる破壊エピソードで構成されていることが判明しました。そして、各破壊エピソードにおいて南北2方向に破壊が非対称に進みながら、見かけ上震源の南へと伝播する様子を捉えることができました。特に破壊初期のエピソードでは、破壊が南側に伝播した後にブーメランのように北側に破壊伝播方向を変え、S波の伝わる速度を超える高速な超せん断速度で伝播していたことも分かりました。
本研究結果は、質の高い地震波形データと自由度の高い波形解析手法を用いることで、ミャンマー大地震のように極めて複雑な震源過程を、地震発生直後に堅牢かつ早期に推定できることを示しています。本研究が示した複雑な破壊伝播様式は、地震発生機構の理解を深め、被害をもたらし得る強い地震動生成メカニズムのより良い評価に不可欠な知見です。震源から遠く離れたバンコクで長周期地震動による被害が発生した原因を理解する上でも重要だと考えられます。
PDF資料
プレスリリース研究代表者
365体育投注生命環境系八木 勇治 教授
京都大学大学院理学研究科
エネスク ボグダン 准教授
掲載論文
- 【題名】
-
A multiple asymmetrical bilateral rupture sequence derived from the peculiar teleseismic P-waves of the 2025 Mandalay, Myammar earthquake.
(2025年ミャンマー地震における特異な遠地実体波P波から得られた複数の非対称的なバイラテラル破壊シーケンス) - 【掲載誌】
- Seismica
- 【DOI】
- 10.26443/seismica.v4i1.1691